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(1)Viriditasについて、ちょっぴり。             次へ>>



ヒルデガルトって、誰?

「強そうな名前」と言われました。

スルドイ。
なぜってヒルデガルトって、ドイツ語で
ヒルデ(戦う)ガルト(庭)という
意味だから。

12世紀ドイツのライン河沿いの町、
ビンゲンの近くの修道院にいた
シスターです。

シスターというと、
俗世から離れて静かに祈りの日々を
過ごすように思われますが、

12世紀の当時、ほとんどの修道院では現在の病院の役割を果たしていて、
修道院内には病人のための病棟を併設していました。

だから当時の修道士やシスターたちは多くの人々にとっての医者であり、
看護師でもあったのです。

のんびりとお祈りをしているだけではなかったのが現状でしょう。

それに加えてヒルデガルトは、修道院長として自分の修道院を守り、
神の教えを伝えるためにさまざまな世俗の有名人(王様や政治家たち)と
対等に交渉したり、ドイツ各地を何度も説教旅行をして渡り歩きました。

まさに名前のとおり、戦う女性という一面も持っている強い人だったのです。

その反面、もともと病弱で何年も病床生活を送ることを繰り返していました。
生来、病気がちだった彼女が、神の使命に導かれて活躍する人生は
不思議で魅力に満ちています。

また今後、そんなヒルデガルトの人生がどんなものだったのか
お話ししたいと思います。

今回はひとつだけ。

このホームページのタイトルにも使用したラテン語のViriditasという言葉について。

今はもう、ラテン語は死語になってしまいましたが。
中世ヨーロッパではネイティブはいないものの、学問用語としては
ラテン語を使わなければいけませんでした。

現在もヨーロッパの人々は古典語の教養として、学校でラテン語を習って、
その習得に苦い経験を味わっているようです。

ヒルデガルトもラテン語が苦手でした。
女性でしたので、ほとんどラテン語の教養がなかったといってよいようです。

そのヒルデガルトが残した著作の中で、頻繁に使われる言葉が
このViriditas(ヴィリディタス)です。
彼女はこの言葉を色々な場面で使っているとのことです。

植物がその葉脈を伝って、すみずみにまで水分を行き渡らせるように
人間もViriditasが細胞のすみずみにまで満ちている。

単なる血液とも津液とも違う。
魂の息吹のようなものが全身に満ちることによって、人間は生きて活動する。

「生き生きとした活力」とか「緑滴る若々しさ」とか。

樹木にとっての樹液のように、人間の身体にとっての魂。
それがViriditasによって表現されることもあるようです。

ヒルデガルトはViriditasを強調することによって、
人間にとって本当は分かつことのできない身体と精神のふたつの概念を
見事にひとつに表現することに成功したと言えるのではないでしょうか。

それを従来のキリスト教神学のように、ただ魂と表現してしまえば、
それは身体やこの世から離れたフワフワした何かが存在しているみたいです。

なかなか理解しにくいものとなってしまいます。

Viriditasは、身体の中に、身体の細胞、原子、分子のすみずみにまで
くまなく巡っているエネルギーのようなもの。

そのように表現すると身体と精神と魂が、切り離せないものとして結びついてくる。

こころは裏腹で、とか、こころは泣いて顔は笑って、とか。
確かにポーカーフェイスのうまい人もいるでしょう。

でも、こころが泣いているとき、やっぱり身体も泣いているのではないでしょうか?
細胞で泣いている。
だから病気になったりする。

やさしいあの人が好き。
でもあの人のやさしさは、あの人の身体全部で表現されているかのよう。
声も目線もぬくもりも、間合いも雰囲気も匂いも。
そのすべてが、あの人のやさしさ。

そんなときViriditasを感じているのではないでしょうか。

だからドイツのヒルデガルト研究者にして医者のシッペルゲスは、
ヒルデガルトの思想を「身体性の哲学」などと解釈して表現しています。

なるほど…。
ぴったりの表現だ。

残念ながらヒルデガルトの主要著作である3つの神学的書物は、
その一部しか、まだ日本語に翻訳されていません。

難解なラテン語の神学的書物を読むのは、イヤだなぁ…。
でも、いつかはヒルデガルト研究者の受け売りではなくて、
自分で原文をひも解いてみたい。

まだまだ先の話になりそうですが。

Viriditas、もっともっと面白い話になるんです。
また今度、お話しできたらと思います。



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