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(1)エンデとカメさん。         次へ>>



私がミヒャエル・エンデの本と出会った
のは、小学校4年生のとき。
『はてしない物語』が日本で初めて
出版された年のことでした。

当時まだエンデの名前を知っている
日本人は、あまりいませんでした。

『はてしない物語』の背表紙が気になって
毎日、本屋さんに行っては、
一番上の高い棚におさまっている
その一冊の本をじっと見上げていました。
(まだ出版されたばかりで図書館には
なかったのです。。。)
やっとお小遣いで買えたその本を読めたときの喜び。
本の中のバスチアンみたいにドキドキしていました。

あれから何十年の時が流れて、今、再びエンデの本と出会いなおしています。

エンデは自分の本について解釈されたり、
説明されたりすることを嫌っていたそうです。
ファンタジー作家としてのエンデの本は、芸術であって、
芸術とは「体験する」ものであると。

バスチアンがファンタージエン国に行って体験をしてきたように
私たちも、本を読むことによって私たちなりの体験をすることができる。

その体験こそが、私たちの意識を変える。
そして意識の変化こそが、この外的現実世界を変えていくことができると
エンデは語っています。(『オリーブの森で語りあう』より)

この問題は、倫理の問題、「モラーリッシュ・ファンタジー」の問題として
エンデの中では重要なものでした。

ひとつの大きな問題ですので、
このことについては、また今度お話ししたいと思います。


今日お話ししたいことは、エンデとカメさんのお話です。

エンデのカメさん好きは周知のとおり。

本の中にもたくさん登場しますし、ホシガメさんを飼っていたり、
カメさんグッズを集めていたり…と、
エンデにとってカメさんは特別な存在でした。

では、エンデにとってカメさんは、どうして特別だったのでしょう?

シュタイナー研究者の子安美知子さんがエンデの言葉を引用しています。
「(カメは)、じつは人間の頭蓋が這い歩いている姿だ」

エンデのカメさんのイメージは、人間の頭蓋ということなのです。。

???

一体、どういうイメージ?と思われますが…

人間の頭蓋が「精神」「意識」の象徴とすれば、納得できるでしょうか。

『はてしない物語』にも書かれています。
人の子は、人の子だけは、ファンタージエン国と
外的現実世界を行き来できるのだ、と。

ファンタージエン国とはすなわち、内的世界、精神世界のこと。
外的現実世界とは、身体をともなう物理的世界のこと。
と、わかりやすく二分法でエンデは語っています。

簡単な理解の仕方ですが、私たちの実感がともなうのではないでしょうか?
私たちにとって、目に見えない意識の世界も、
目に見える物質の世界も、ともにいつも実感している世界だと思います。

人間にとって、どちらかが本当ということはありえない。

意識を消すことも、身体をなくすこともできない。
どちらも人間にとって、身近なものです。

なぜなら、人間は受肉した精神=魂という存在だから…。

この精神の受肉も、人間にとって本質的な話になりますので、
ここでは、これくらいに留めておいて。

さて、カメさんのお話です。

カメさんは、その受肉した精神のなかでも、
頭蓋、特に精神をつかさどるイメージです。

しかし人間にとって、純粋に精神的なものを知覚することはできませんよね。
どんなに知覚しようとしても、身体に結びつけられている限り、
それはどこか物質的なイメージが伴うわけです。

とはいえ、目に見えない精神的なものに気を付けていると
超感覚界を知覚する器官が生じると、
ドイツの思想家シュタイナーは言っているそうです。

つまり、敏感に精神的なものを感じ取る器官が発達するというのです。

その先端の器官の象徴が、人間の頭蓋というわけです。

エンデにとってシュタイナーは特別な思想家。
自身もふつうのクリスチャンではなく、シュタイナー思想にもとづく
共同体に属していました。

シュタイナーの思想が血と肉となっていてほしいと願っていたというエンデ。

おそらく、人間の頭蓋を超感覚界(精神世界)を知覚する器官の象徴として捉え、
そのようなものとしてカメさんをイメージしていたのは当たっているようです。
(詳しくは、子安美知子さん『「モモ」を読む』朝日文庫に書かれています。)

しかも、エンデはこう言っているそうです。
「人間のなかで頭蓋としてあるもの、つまり小宇宙のなかの頭蓋は、
大宇宙の中では…星空なんですよ」と…。(『暗闇の考古学』)

そうかぁ、エンデはそんな壮大なイメージを
カメさんのなかに見ていたのか…。

もう理解や解釈は超えて、エンデのいう星空のイメージに
身を委ねてみたい。

『モモ』のなかに出てきた、時間の花の咲く、あの星空の音楽のイメージ。

いのちで結ばれている小宇宙と大宇宙。
その全体にカメさんのイメージを重ねる…。

だからエンデにとってカメさんは、特別だったんだ。

じゃあ、カメさんを好きな人は、無意識に
こんな宇宙を感じ取っているのかもしれない…

時間の向こう、時間が生まれる場所、いのちの源。

そんな世界を感じ取っているのかもしれない。


憧れ。
私もまた、星空のなかに身をまかせながら
感じてみたい。




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